令和6年度 大学院工芸科学研究科 入学宣誓式(秋季)
学長祝辞

 京都工芸繊維大学大学院に入学および進学された皆さん、本日はまことにおめでとうございます。本日ここに入学宣誓式を迎えられたのは、大学院博士前期課程31名、博士後期課程23名です。これまで皆さんを支えてこられましたご家族や関係者の方々に、本学の教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。本学大学院での時間が充実したものとなることを学長として心より願っております。

 工科系大学で中心となる工学は、社会に役立つ事物や安全で快適な環境を構築することを目的とする学問です。工学は、数学や物理学、化学、生物学などの基礎理論や自然原理の理解をもとにしています。いま、グローバル化と都市化が進み、エネルギーや資源の問題、地球温暖化、超高齢化社会、災害に強い社会の構築など課題が顕在化しています。工学はこれらの課題解決のためにますます重要になっています。

 社会に役立つ事物や安全で快適な環境を企画し設計するためには、課題を発見し目的を明確にする必要があります。要求されている事項を理解せずには前に進めません。次に、実際に事物や環境を構築するには、どんな方法が使えるかを知ることが重要です。原理的な限界を理解しておくことも必須です。加えて、その方法が最善のものか、あるいは、むやみに複雑化していない自然な方策であるかという視点を常にもつ必要があります。個々の事物や環境の構築だけでなく、総合的な判断ができることが重要です。

 大学院では、学部で修得した専門知識の深化とともに、自ら問いを立て、仲間とともに答を見つけ出すことが本格化します。博士前期課程では、具体的な課題の解決に向けて、企画や設計から評価までの一連のプロセスを実践します。博士後期課程では、自ら課題を発見し、それを解決して新たな価値を創造する能力の形成を目指します。ここでは、「自らの方法が独自のものであるか」「成功時の利点は何か」「他の競合技術と比較して強みは何か」などの問いに答えられる能力の形成が重要となります。

 工学をはじめとした教育研究を進めるにあたって、本学で基本としている「京都思考」についてお話しします。京都には永きにわたり、生活の中の衣食住に関するあらゆる品物、そして茶道、華道、能楽、祭りなどの文化の隅々にいたるまで、洗練されたものであらねばならないという人々の強い思いが根づいています。さらに、単に技を継承するだけでなく、革新的な挑戦を続け、新しい価値を創造して発展してきた地でもあります。

 今も、伝統的な分野から先端的な工業製品まで、質の高いものづくりが行われ、それらは「不細工なことをしてはいけない」という信用に支えられています。これらを我々は「京都思考」と表しました。本学は京都発の先鋭的な国際的工科系大学として、これまでにない新しい発想や価値の創造を目指しています。

 この京都思考をベースに、TRADITION×INNOVATION、ART×SCIENCE、LOCAL×GLOBALの3つを本学の理念としています。
 TRADITION×INNOVATION は、京都の地が育んできた心意気と創造的挑戦心をもとに、未来を切り開くイノベーションを起こすことを目指しています。
 ART×SCIENCEは、既成概念にとらわれない思考や発想である「ARTの発想」と科学を掛け合わせることです。世界中で起こる地球規模の課題を解決するためには、自然科学のみでなく、人文科学や社会科学の考え方も取り入れることが必要です。大学院に進んだ皆さんは、自身の専門分野の深掘りに加えて、異分野融合のプロジェクトに関わってみてください。そうすることで、今の研究に新たな意味づけがなされ、違う出口や社会実装の形が見えることがあります。新しい展開を模索している人も、自身の研究を突き詰めたい人も、きっと大きな発見が得られることでしょう。
 京都というLOCALで培われた京都思考に、持続可能な世界的問題を解決するGLOBALな地球思考を掛け合わせ、新価値の創造を目指すことが、LOCAL×GLOBALです。皆さん、何らかの形で海外に目を向け、海外に飛び出してください。成果発表や海外インターンシップ、海外大学院共同学位プログラムなど海外を体験する多くの機会があります。留学生の皆さんは、京都というLOCALを体験し、自らの文化や視点を積極的に披露してください。是非、異なる視点を理解し自己の価値観を確立してください。

 皆さん、自ら問いを立て、その解決を進めてください。仲間と議論し協働し、さらに異分野や異文化の視点を学び、取り入れていくことが重要です。本学大学院での皆さんの活動が実り多きものであることを期待しています。皆さん、まことにおめでとうございます。

令和6年9月25日
京都工芸繊維大学長
吉本 昌広