繊維学系 谷口育雄 教授らの研究グループは、圧力応答性高分子によるプラスチックの低温成形とリサイクル性向上に成功しました

 繊維学系 谷口育雄 教授らの研究グループは、加熱ではなく加圧によって流動し、低温で成形できるバロプラスチック(注1)を、汎用の生分解性プラスチックであるポリL乳酸に添加することで、その成形温度を最大で約100 ℃低下させることに成功しました。さらに、この特異な低温流動のメカニズムが、加圧によってバロプラスチックのミクロ構造が秩序状態から無秩序状態へと相転移することに起因することを明らかにしました(図1)。本研究は、バロプラスチックの添加による汎用プラスチック(非バロプラスチック)の「圧力可塑化(baroplasticization)」という新概念を提案し、汎用プラスチックに低温成形性を付与できる一般的な設計指針を確立したものです。この成果は、プラスチック成形加工(注2)の省エネルギー化や二酸化炭素排出量の削減に加え、リサイクル性向上にもつながる革新的技術であり、廃プラスチックによる環境汚染の抑制にも貢献することが期待されます。

図1. バロプラスチックをポリL乳酸に添加することによる加圧下での低温流動の模式図

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 本研究成果は、2025年10月28日(現地時間)に学術雑誌『ACS Macro Letters』(外部リンク)にて公開されました。

<用語説明>
注1)バロプラスチック(baroplastics)
 主にブロック共重合体(block copolymer)などのように、分子の中に「異なる性質を持つ部分(ハードドメインとソフトドメイン)」をもつ高分子多相系材料である。圧力を加えると、これらのドメイン間の秩序構造が一時的に崩れ(秩序→無秩序)、分子が動きやすくなることで材料が流動化する。圧力を解放すると再び秩序が戻り(無秩序→秩序)、固体状態に戻る――という可逆的な挙動を示す。

注2)プラスチック成形加工
 一般的な熱可塑性プラスチックは、加熱すると分子鎖の運動が活発になって軟化し、金型へ流し込むことで成形される。代表的な方法には、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などがある。しかし、このプロセスには高温(200℃以上)と高圧(数百気圧)が必要であり、多量のエネルギーを消費するのみならず、高温での成形を繰り返すうちに分子鎖が熱分解や酸化劣化を起こし、機械的強度や透明性などの特性が低下する問題がある。

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