分子化学系 北所健悟 准教授らの研究グループは、黄色ブドウ球菌※1が産生する病原因子の1つである「リパーゼ(SAL)」と抗精神病薬のペンフルリドール(PEN)※2との複合体の立体構造をX線構造解析の方法を用いて、世界で初めて解明しました。
インシリコスクリーニング※3を用いた手法で、約5万種類の既存薬の中から、PENが既存のSAL阻害剤と同等のレベルでSALの活性を阻害することを発見しました。更に、宇宙空間での共結晶化に成功した結晶を、大型放射光施設「SPring-8」の強力なビームを使って測定することによって、SALとPENとの複合体の構造を原子レベルで解析し、PENによる阻害のメカニズムを解明することに成功しました。
本研究成果は、構造情報を元にしたSALに対する薬剤の理論的な開発に役立つと考えられ、より有効性が高く副作用の少ない治療薬の探索?設計が可能になると期待されます。特に、SALが黄色ブドウ球菌の増殖に関与していることから既存の抗菌薬の効かないMRSA感染症や、黄色ブドウ球菌によって引き起こされるアトピー性皮膚炎などの治療薬の発展が期待されます。
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この研究成果は、2025年4月14日に、学術雑誌「Scientific Reports」(外部リンク)に掲載されました。
<用語解説>
※1 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;SA菌)
ヒトの鼻腔などに存在する常在菌で、化膿した傷口の膿の部分に多く存在し、感染症の原因となる多くの毒素タンパク質や酵素などの病原因子を産生します。病原性が強い菌で、基礎疾患のある人など、免疫力の低下した患者に対して、肺炎、敗血症、骨髄炎、関節炎などの重篤な感染症を引き起こします。
※2 ペンフルリドール(PEN)
抗精神病薬として使用されています。T型Ca2+ チャネルブロッカーで、統合失調症治療薬です。
※3 インシリコスクリーニング
コンピュータ上で(インシリコ)、阻害剤の候補を検索する方法です。
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